【翁の漫画評】それでも町は廻っている 石黒数正 88点
タイトル:それでも町は廻っている
作者:石黒数正
連載期間:2005年5月~連載中 既刊15巻(2016年7月現在)
評価点:88点
あらすじ(wikipedia引用):
嵐山歩鳥は、丸子商店街の喫茶店シーサイドで、ウェイトレスのアルバイトをする女子高校生。ある日、マスターの磯端ウキが、店を繁盛させる秘策を思いつく。それは、シーサイドを巷で流行っていると話題のメイド喫茶にすることだった。…
アニメ化もしたし、もう10年近くアワーズの看板作品となっている『それ町』。『ヘルシング』『トライガン』終了後、アワーズがもっているのは石黒先生のおかげであることは間違いないだろう。
今や数ある「日常もの」の中でもトップクラスの面白さと安定感を持っている。「日常もの」って恐ろしいもので、一旦キャラクターと世界観が出来上がってしまうと、「ハズレの回」なんてなくなる。「すごいアタリの回」と、「まあまあアタリの回」しかなくなる。キャラが動いて喋っているだけで「まあまあアタリ」くらいの面白さが担保されているのだ。ちなみに、その極北にあるのがあずま先生の『よつばと』である。さらに、動物を主役にした漫画にもこの状態がよく見られる。
これが何なのかと考えると、要するに「萌え」と言われているものの根源的なカタチであろうと思われる。ここに性的なリビドーやフェティシズムを加えることで、いわゆる「萌え」が完成するのではなかろうか。まぁ、単純に「愛しさ」と言い換えることもできるだろう。
やや話が逸れてしまったので、『それ町』評に戻そう。
この作品は、前述した作品群ほど「愛しさ」に直接訴えかけることをウリにしたものではない。作者のミステリについての造詣をベースにした、いわゆる“日常の謎”と呼ばれるジャンル(米澤穂信または京アニの『氷菓』と同じと言えばわかりやすいだろうか)のオムニバスという向きもあるし、なんとなく昭和臭さの残る舞台(商店街、高校、小学校)を背景に、郷愁を誘うようなエピソードも多い。
とにかく共感力が高いのだ。そしてその力の源泉となる、洗練されたキャラクター造形について言及しないわけにはいかない。商店街の面々、高校の同級生、小学校の同級生、具体的なモデルがいるのだろうとは思うが、とにかく造形のリアリティが高い(特に小学生)。デフォルメして特徴を残しつつ、美形でも不細工でもないリアルなキャラを作るのが本当に上手いと思う。こうしたキャラクター造形は作品全体のリアリティにも一定の説得力を持たせている。そして、単純に絵柄が好みだ。
また、エピソードが時系列順じゃなくバラバラに連載されるのも特徴の一つだ。どこから読んでもいいようになっているので、ぜひ一読してみてほしい。