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【翁の漫画評】鮫島、最後の十五日 佐藤タカヒロ 79点

 

 

タイトル:鮫島、最後の十五日

作者:佐藤タカヒロ

連載期間:2014年~連載中 既刊8巻(2016年7月現在)

評価点:79点

あらすじ(公式引用):

誰よりも相撲を愛しながらも、小兵と呼ばれる恵まれぬ身体。踠き…抗い…挑み続けた幕内力士、鮫島鯉太郎。熱き力士の冷酷な一場所、十五日間の記録と記憶。 大相撲巨編「バチバチ」シリーズ最終章。

 

 

ジャンプの『火の丸相撲』より先にやってた少年誌の相撲漫画。あらすじにある通り、『バチバチ』『バチバチBURST』と続いてきた三部作の最終作となる。

スポーツものといえばマガジンが昔から強いけど、近年はチャンピオンも見逃せない作品を多く輩出している。この作品もそのひとつ。

「最後の十五日」とは、なんとも悲劇的な結末を予想させるいいタイトルだろう思う。現時点で単行本8巻が出ているが、タイトルで十五日と強調していることで一日一日の取り組みの濃密さがより感じられるし、一番ごとに終末までのカウントダウンが明確に進んでいくのも不思議なスリルがある。

 

またやはり決して多くない「相撲」というテーマを扱っている以上、『火の丸』との比較で語るのがわかりやすいだろう。『鮫島』と『火の丸』の違いがそのまま『チャンピオン』と『ジャンプ』の誌風の違い、あるいは読者層の違いを浮き彫りにしているようで、読み比べると大変面白い。

 

相違点より先に共通点を考えてみよう。

第一はもちろん相撲をテーマにしていることだ。何故今相撲を描こうと思ったのか、それぞれの作者のインタビューなどあれば読んでみたいので誰か教えてください。

もうひとつ大きな共通点がある。それは、主人公が身体的に不利な体格であることだ。

これも必然と言えば必然の設定ではある…が、相撲においての体格的不利は他のあらゆるスポーツ以上に深刻であるということがポイントかもしれない。

サッカーならウイングやトップ下、バスケならPG、バレーならリベロなど団体競技にはたいてい適材適所的な居場所があるし、柔道やボクシングには階級制がある。

誰も助けてくれない個人競技でなおかつ問答無用で無差別級の相撲にはそういう逃げ場はなくて、体格的な限界は必ずぶつかる壁なのだろう。何より、現実の角界で日本人横綱が何年も出て来ないことを見れば、どれだけ厳しいものかは想像がつく。

 

前述の根本的な2つの共通点を除けば、似ているところはほとんどない。

まずパッと見でわかりやすいのがビジュアルの違いだ。絵の上手い下手の問題ではもちろんなく、「かっこよさ」の見せ方に大きな違いがあるように感じる。

言うて、『火の丸』のキャラクターは美系のイケメン揃いである。これはやはり、多少なりとも女性読者の存在を意識したものなのかもしれない。

一方で、『鮫島』の主人公はヤンキーである。実際に元ヤンの乱暴者という設定であり、面構えも完全に不良のソレである。これはやはり、いかにもチャンピオン的読者層を意識した結果だろう。

舞台背景でも大きな違いがある。『火の丸』は高校の部活動が舞台で、最終目標は全国大会優勝、つまり「学生横綱」ということになる。『鮫島』は大相撲が舞台で、最終目標は本場所優勝、正真正銘の「横綱」だ。最後の十五日と銘打っている以上、横綱になることはまずありえないので、全勝優勝で最終日横綱と対決といったところだろうか。

やはりプロの世界を描いているということもあってか、人生を賭けた本気の勝負、本気と本気のガチのぶつかり合い(まさしく“バチバチ”)が生み出す取り組みの面白さでは『鮫島』に軍配が上がるだろう。

 

比較論にばかり終始してしまったが、『鮫島』単独で読んでももちろん面白い。なんなら、前作の『バチバチ』『バチバチBURST』をすっ飛ばしてここから読んでも楽しめるかもしれない。

とはいえ、出てくるキャラクターや主人公の心理などをより理解するには、やはり第一作目の『バチバチ』から読むのが望ましい。無印、BURST、そして今作とそれぞれに異なる面白さがあるので、是非最初から通しで読むことをおすすめしたい。