【翁の漫画評】天 天和通りの快男児 福本伸行 94点
タイトル:天 天和通りの快男児
作者:福本伸行
連載期間:1989~2002年 完結(全18巻)
評価点:94点
あらすじ:
理詰めによる麻雀を得意とする大学生の井川ひろゆきは、ある日雀荘で代打ちの天貴史に出会い、その麻雀と人格に惹かれていく。ひろゆきは代打ちの世界に没入し、神域と呼ばれる赤木しげると出会う。そして、日本の裏麻雀界の頂点を決める東西戦が行われることとなった。
世の中の長編漫画のほとんどは、その作品のピークを前半~中盤ですでに終えている。
初めの1~3巻くらいは導入で徐々に面白くなり、8~10巻くらいから始まるシリーズでピークを迎える。
これは、連載前の作家のプランがだいたいそのあたりまでを構想して描き始めているからで、人気が出ると作品はいつまでも継続するが、ストーリーのクオリティは少しずつ下がっていく。
クオリティが多少落ちても、今の漫画はキャラクターの力が強いので、キャラクターさえ出来上がっていればかなりのところまで作品は延命できる。
しかしクオリティはどんどん落ちていき、後付け設定により矛盾点が生まれたり、インフレに悩まされたりして、最終的には打ち切り同然の形で幕を閉じる。
これがよくある長期連載漫画の全貌である。(断じてブリ特定の作品を指しているわけではない)
上記ほど悲惨な末路でなくとも、連載開始から終了まで右肩上がりで面白くなっていくような長期連載作品はほとんどない。特に、一番面白いところで終わる、というのは商業的にも難しいのだ。
だからこそ、山王戦でむりやり終わらせた『スラムダンク』は伝説になった。仮にあの後、70巻くらいまで続いていたとしたら…「山王戦までは神だった」とか「ゴリ世代が卒業して1年が入ってきてからつまらなくなった」とか言われていたんだろうな。
前置きが長くなってしまったが、 本題である『天 天和通りの快男児』について語ろう。
この漫画は、間違いなく最初から最後まで右肩上がりに面白くなり続け、最高のピークで完結を迎えた稀有なる作品だ。
しかし、それは構成が巧みとか伏線回収が云々、とかいう技術的な話ではなくて、<赤木しげる>というキャラクターのカリスマが生みだした奇跡である気がする。
作者のあとがきによると、16~18巻の展開は蛇足になるんじゃないかと相当描くのを迷ったというようなことが書いてあるが、やはりあの展開があってこそ傑作になったのだと思う。
いかにも80年代チックな人情ものとして始まった平凡な麻雀漫画が、赤木の登場を機に急に面白くなり、回を重ねるごとに赤木の存在感が増していき、最後は文字通り、作品は赤木と心中した。
この赤木しげるの青年時代を描いたスピンオフ作品『アカギ』が ヒットしたことからも、このキャラクターがいかに優れていたかが伺える。
ちなみに、主人公であるヒロユキ(タイトルが『天』なので天が主人公かと思いきや、物語構成的にはどう読んでも主人公はヒロユキとしか思えない)のスピンオフ作品も出ている。
もちろん、 "ヒロユキの成長"という点で見ても16~18巻は必要だった。
『アカギ』における赤木はヒーローだが、『天』における赤木は天と並んで師のような存在だ。
ヒロユキの師であることはもちろんのこと、読み終えた時、赤木は我々読者にとっての師でもあったことに気づくことになる。
ここに私が感銘を受けた名言の数々を引用したいところではあるが、それはあまりにも野暮になるので止めておこう。
是非、本作を読み進める中で自然にその言葉を受け止めていただきたい。
最後に、麻雀漫画の宿命として、やはり麻雀のルールを理解しておいた方がより楽しめるであろうことは断っておく。
赤木の死にまつわる16〜18巻を別にして、麻雀東西戦だけでも麻雀漫画として十分に傑作といえる面白さがある。
今後一大ジャンルである麻雀モノを存分に楽しむためにも、一度ルールを勉強しておくことはきっと無駄にはならないはずだ。