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【翁の漫画評】無限の住人 沙村広明 93点

 

タイトル:無限の住人

作者:沙村広明

連載期間:1993~2013年 完結(全30巻)

評価点:93点

あらすじ(公式引用):

「勝つ事こそ剣の道」という逸刀流統主・天津に両親を殺された少女・凜は、仇討ちのため、身に血仙蟲を埋め込んだ不死身の男・卍を助っ人にする。異形・残虐・悲運……様々な殺人者たちが交錯し葬られる、凄惨な剣戟活劇。これが「ネオ時代劇」だ!第1回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞作品。

 

 

個人的にはかなり好きなのだが、なぜかイマイチ知名度が低いと感じるこの『無限の住人』。『るろうに剣心』の5000倍は質の高いチャンバラをやっていると思うのだが。

時代も掲載誌も違うんだから比べようもない?いやいや何を言う。

るろうに剣心』と言えば十本刀。志々雄の愛刀「無限刃」など、新井赤空作の奇剣に魅了されて刀の魅力に目覚めた男子は少なくあるまい。

そう、"カスタマイズされた武器"というのは、基本にして至高、まさに究極のロマンだと断言したい。

RPGやアクションゲーなどの「固有キャラ専用の最強装備」と似たような感覚だ。

さらに、一見して奇妙な形状に隠された機能性、使いにくいが使いこなせば強いという専門性、そしてディティールに対するこだわり。

これらがそろった武器こそが最高の武器なのだ。異論は認めない。

 

そしてこの『無限の住人』には、その最高の武器と、最高の使い手が次から次へと登場する。

そして奇抜でいて奇抜すぎない、ギリッギリで説得力のある奇人変人剣客集団。

そう、ただ形が奇抜なだけではダメで、そこに機能性があるから違和感を感じず作品にのめり込めるのだ。作者のアイデアの練り込みと優れたバランス感覚がなせる業だ。

とにかく、この作品の半分は武器が主役とも言える。それを裏付けるように、キャラではなく武器のコレクションフィギュアが出ているほどだ。

無限の住人 武器屋(えものや)24時間 武器コレクションフィギュア BOX

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また、主人公が不老不死という設定。これ自体は、そこまで珍しくもない。先日評した『HELLSING』のアーカードだって不死身だし、ほかにもいっぱいいる。

でも、不死身の弱キャラ主人公は見たことなかった。不死身の奴らはみんな強キャラだった。本作の主人公"万次"は、不死身込みで敵とギリ互角かちょい不利。だいたい、いつも四肢2.3本持ってかれてギリ勝ってる感じ。いや、決して万次が弱いわけではなくて、敵がそれくらい凄腕なのだ。これも絶妙なバランスと言える。

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主人公の万次。だいたい毎回これくらい死にかけてる。 

 

シナリオも文句のつけようがない。序盤は割とかったるい展開が続くが、後半のクライマックスに向けてどんどんボルテージが上がっていく。

特に、中盤以降群像劇化してからが最高で、『ガンダム』でジオン側がむしろ好きになるような感覚と同様、敵側も大好きになってきてもはや敵じゃない、こいつら全員好きなのにどんどん争って死んでいく状態。

そして三つ巴。「三つ巴が熱い物語に駄作はない」というのが私の座右の銘

それこそ『ガンダムZ』のエゥーゴvsティターンズvsアクシズ、『HELLSING』の英国国教騎士団vsイスカリオテvsミレニアム、最近なら『ゴールデンカムイ』の主人公vs第7師団vs土方歳三でもいい。古代中国なら魏vs呉vs蜀だ。ほら、全部最高じゃないか。な?

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左)手錠のような刃物の使い手、儀一。強さもかっこよさも作品中随一。敵かな?味方かな?

右)最後まで謎すぎる剣士、怖畔[おずはん]。敵かな?味方かな?

 

熱くなってしまったが、事実最高なのだから致し方ない。

ともかく、あらゆる面でロマンを刺激してくる作品だということはわかってほしい。

では、この作品が最高だというなら何故100点じゃないのか?言い換えれば減点要素は何なのか。

それは、読んでいる瞬間は最高に興奮するが、読後に残るものはほとんどない、という1点。手に汗握る名勝負は数多くあるが、心に残る名セリフみたいなものは全く浮かんでこない。

 

もちろん、そんなものなくても十分名作なので、「刀で戦う」ものが好きなら絶対に外せない一作だ。

木村拓哉主演(!)で実写映画化が決定し、2017年に公開予定なので、今のうちにチェックしてみんなに差をつけよう。

そして「原作をぶちこわしにされた、だから実写化するなら少女漫画だけにしろと言ってるのに」と嘆く原作厨の仲間入りをしよう。

講談社の公式Webサイト「モアイ」から第1話の試し読みができるので、この後予定がなければ今すぐどうぞ。

 

リンク:『無限の住人』―モアイ

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