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【翁の漫画評】じゃじゃ馬グルーミン★Up! ゆうきまさみ 72点

 

タイトル:じゃじゃ馬グルーミン★Up!

作者:ゆうきまさみ

連載期間:1994~2000年 完結(全26巻)

評価点:72点

あらすじ(公式引用):

バイクで北海道を旅行していた久世駿平は、ガス欠、しかも自分も空腹で行き倒れ寸前。そこで助けてくれたのが、渡会牧場でした。一文無しの駿平でしたが、あれこれあって、渡会牧場でアルバイトすることになるのです。いきなり馬のお産に出会い、次から次へと登場する美人姉妹にびっくり仰天し…駿平の新たな人生がここから始まります。 

 

 

 競馬を題材にした漫画は数多くあるが、本作のように生産牧場を舞台にした作品は珍しい。

主人公の久世駿平もジョッキーではなく素人同然の牧童。自然、レースの駆け引きや結果よりも、牧場での日常やヒロインとの恋愛に主眼が置かれている。

 

それにしても、この人は本当に漫画がうまい。サンデー作家に共通した特徴とも言えるけど、安定感が半端じゃない。正直90年代後半を中心に連載された作品にしては多少古臭い感じもするが、どのエピソードも安心して読める。『究極超人R』『パトレイバー』ときてこの『じゃじゃ馬』と立て続けに良作を生み出すんだから実力があるとしか言いようがない。

思えば、ちょうどこの頃はジャンプで『みどりのマキバオー』が連載され、マガジンでは『蒼き神話マルス』、さらにはチャンピオンで『優駿の門』が連載されていたのだ。少年漫画四誌すべてで競馬漫画が連載されていたなんて今では信じられないし、この先もそんな時代はこないのではないか。

上記三作と比べてみれば、『じゃじゃ馬』は実にレースの描写があっさりしている。だいたいメインのレースでも1話か2話、それも馬や騎手より観戦しているキャラの描写のほうが圧倒的に多い(主人公が観戦してる側なので当然と言えば当然だが)。日本ダービーでまるまる8話レースを描き切った『マキバオー』なんかとは、まるっきり立ち位置が違う。というか、同じ競馬がテーマでも、完全に別ジャンルと思っていい。だから、いわゆる競馬漫画だと思って読むと期待外れに感じるだろう。

 

以下ネタバレあり(ドラッグで反転)

また、恋愛漫画として見ても、少年漫画で結婚して子供産むとこまで割と現実的に描くって珍しいのではないか?最終回近くで時間がぶっ飛んで子供ができてる表現は多いけど、この漫画の場合後半の数巻を使って妊娠・結婚話をじっくり描いている。
しかも、作中時間2~3年くっつくくっつかないを長々描いたと思えば、付き合い始めてすぐセックス、しかも一発着床である。まさか少年誌でこんな展開になるとは思ってなかったので、読んでてびっくりしてしまった。
恋愛模様に限らず、牧場経営やレースの結果についてもあくまで現実的だ。もちろん、漫画である以上見せ場はあるが、たくさんの生産馬が出てくる中で結局GⅠレースをとったのは1頭だけ。駿平が格別の愛を注いでいた双子の馬も、作中さんざん走らない走らないと言われフラグかと思いきや本当に走らなかった。
いや、もちろん、処分寸前だった双子を駿平がかいがいしく世話を焼いたからこそ、新馬戦を勝利し、条件馬ながらダービー出走までこぎつけることができたというのは物語のゴールとして十分ではあるし、それ自体奇跡的ですらあるんだろうが、結局使いつめてガレ、ダントツのビリって…。
この作品の結末としては至極正しい選択だったとは思うが、表面的なカタルシスを追う選択肢もあったはずで(そっちのほうが少年漫画的には王道)、この選択ができたのは作者が築き上げたそこまでの人気や信頼があってこそのものだと感じ入った。

 

いずれにせよ、ゆうき先生は何を描いても面白いということが証明された良作である。

ジャンプ作品のようなど派手なエンターテイメント性はないが、どっしりと安定感のあるベテランの味に酔いしれよう。

 

試し読みリンク:サンデー名作ミュージアム

  

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