【翁の漫画評】莫逆家族 田中宏 70点
タイトル:莫逆家族
作者:田中宏
連載期間:1999~2004年 完結(全11巻)
評価点:70点
あらすじ(公式引用):
単車、仲間、女、暴力――。あの頃、そんなものが俺達のすべてだった……。時は流れ俺達は、このちっぽけな街で再び出会った――。
『BADBOYS』の田中宏がヤンキーの成長した姿を描いた一作。
ヤンキー男がヤンキー女と結婚し子どももヤンキーになる(エリートヤンキーか?)というヤンキー家族はフィクションにも多いし実際現実にもありそうだが、本作における「家族」は少し意味が違う。
若かりし頃に一時代を築いた地元の元ヤン(暴走族メンバー)達が血のつながりを越えて結束し、マフィア的な意味での「家族」として、独自の法を用いて地域を統治していく話だ。
彼らは共同体としての「家族」を外敵から必死に守ろうとするが、少しずつ破滅への道を歩み始めていく…。
“人の決めたのルールじゃ生きられねぇから……自分たちの法律≪ルール≫で生きているだけ……!!”
はい。全然大人になってねっす。
本作に限らず、フィクションのヤンキー達は(現実も恐らくそうなんだろうが)とにかく異常なまでに排他的だ。
狭いコミュニティを作り上げ、内部ではとにかく情に厚く、裏切りに厳しい。
外部の人間は敵とみなし闘争するか、下位の者とみなして威嚇し、威圧する。
その行動原理のままに年をとると、本作のような「家族」を作ってしまうことになる。
基本的にヤンキー漫画もヤクザ漫画も好きだし、法を無視して復讐や粛清を行うビジランテものも大好きだ。でも、掛け合わせるとダメになるということがよくわかった。
何がダメなのか?自問自答しながら、順を追って考えてみたい。
「家族」は、「家族」の誰かを害するものには団結してこれに報復する。報復は自らの手によって行い、国家権力は頼らない。「家族」には警察内部の者がおり、捜査の手が伸びないよう事後処理を行う。
うん、ここまでは問題ない。
「家族」は、周辺地域でかつて名をはせた元暴走族たちによる共同体である。主人公は暴走族のヘッドを務めた火野鉄であるが、物語は主にその息子である火野周平の視点によって語られる。
うんうん、なかなか面白そうだ。
「家族」のメンバーである火野鉄とその仲間たちは、暴走族を引退後、建設業や飲食店経営、家業の電気屋など、それぞれの職に就き平穏な日常を送っている。
なるほど、皆カタギなんだな。元ヤンだからって、現在は後ろ指を指されるような生き方はしてないわけだ。
暴走族時代の因縁から、平穏な日常を送る「家族」のメンバーが狙われ、身内の女性がレイプされるシーンが3回ある。その度に「家族」は怒り狂い、総力をもって犯行グループを追いつめ、報復し、時に命を奪う。
当然の報いだ。身内がレイプされるなんて、法律など無視して直接殺したいと思う気持ちはわかる。現実にはできない分、さぞかし読んでいてスカッとするシーンだろう。
なお、主人公の火野鉄は性欲が強く、通行人を問答無用にレイプする悪癖がある。
えっ…?
え、それは…。それはおかしくない?
いや、大丈夫。レイプされた被害者は鉄の親友でホストの浩介が手練手管で調教して惚れさせてるので事件化はしない。
いや…そういう問題じゃなくない?
ていうか卑怯じゃない?その都合のいい表現。
鉄にレイプされた女にも「家族」がいるはずなんだけど。
だって元ヤンだからそういう豪放磊落な感じの方がいいし。だいたい、鉄のレイプはギャグとして描いてるし、女も喜んでる。悪者のやつとは違う。あとこの話は鉄の「家族」の話だから、それ以外の家族とか知ったこっちゃない。
ああそう…じゃあもういいや。
なんかわかりましたんで。
と、こういう感じである。
「我々は他人に配慮しないが、他人は我々に配慮しなければならない」というヤンキー的価値観と、「法を越えた道徳」としてのビジランテものは最悪の相性であることがわかったと思う。
友達の妻がレイプされただと?許せん!とか言っても、いやお前らもやってるじゃん…ってなったら興覚めもいいとこだ。
まぁこういう感覚は多かれ少なかれヤンキーものにありがちなんだけど、ちょっとこの作品では鼻についてしまった。
とはいえ、話の展開自体はスリリングであり、あけすけな暴力表現も慣れている人にとっては楽しめるだろう。特に後半は、読み始めたら最後まで止まらずに読みたくなる魅力がある。
最後に一つだけ、よくわからなかったこと。
最終巻の鉄の回想シーン内の、子供のころの鉄だけ妙にリアルタッチなのは何故?
↑ 通常シーンの子どもたち。田中宏先生本来のタッチである。
↑ 子供のころの鉄。ここだけ木多康昭が描いてんのか!?
誰かどういう意味なのか教えてください。
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