【翁の漫画評】応天の門 灰原薬 74点
タイトル:応天の門
作者:灰原薬
連載期間:2013年~連載中 既刊5巻(2016年8月現在)
評価点:74点
あらすじ(公式引用):
時は平安、藤原家が宮廷の権力を掌握せんと目論んでいたその頃、都で突如起きた女官の行方不明事件。「鬼の仕業」と心配する帝から命を受けた・在原業平は、ひとりの青年と出会う。その少年の名は――菅原道真。ひきこもり学生の菅原道真と京で噂の艶男・在原業平――身分も生まれも違う、およそ20歳差のふたりが京で起こる怪奇を解決!? 「回游の森」「SP」の気鋭・灰原薬がおくる、平安クライム・サスペンス!
菅原道真と在原業平のコンビを主役に据え、平安京を舞台に日常の謎っぽいミステリをやったりする漫画。
だが、最新の5巻から大きく話が動いてきて、タイトルでも示唆している応天門の変へ向けたストーリーが始まりそうだ。
左)名家の学問小僧、菅原道真 右)京随一のプレイボーイ、在原業平
参考)史料の道真と業平
ご存じ菅原道真と言えば藤原氏の陰謀で大宰府に左遷され、死後朝廷に祟りをもたらしたとして恐れられ神様になった人だ。
天神信仰といって"天満宮"と名の付く神社では道真を祭っているし、童謡「とおりゃんせ」にある「天神様の~細道じゃ~」の天神様とは道真のことである。
最初は祟り神として畏れられたが、今は学問の神として崇められている。
天変地異が起こったのは事実であろうが、それを当時の人々が道真の祟りと結びつけたというのは、それほど道真の左遷が理不尽なものであり、道真が非常に優秀だったということなのだろう。
とはいえ、作中の道真はまだ少年といっていい歳で、左遷されるところまで描かれるかはわからないが。
個人的に気になるのは、この作品の少年道真は唐の文化に憧れに近い興味を持っており、遣唐使として唐に行くことを夢見ているのだが、ご存じのとおり遣唐使を廃止したのは道真その人なのである。
いざ遣唐使として指名された道真が何故それを蹴って制度自体を廃止にしたのか。どういう風にそこに持っていくのか非常に気になる。
ちなみに遣唐使廃止は894年。「894(白紙)に戻す、遣唐使」と覚えよう。
ともかくこの漫画でも敵役は藤原氏で、摂関政治による圧倒的な政治力で京を牛耳っている。藤原氏と言えば道長(この世をば…を詠んだ人)と頼道(平等院鳳凰堂を作った人)が有名だが、作中に出てくるのはもうちょっと前の時代で、良房と基経が中心。
左)天皇を傀儡にする狸爺、藤原良房 右)後に天皇すら廃位する関白、藤原基経
少年の道真は学問に夢中であり、都の政争には関わりたくないと思っているのだが、在原業平との出会いをきっかけに色々な事件に巻き込まれていく。
政治云々の知識がなくても、平安京で起こる怪現象の謎を道真が科学的に解決するという話が中心なので、純粋にライトなミステリとして読んで楽しめる。
ところで作者の灰原薬という先生は、女性である。やはり、平安初期~中期の漫画は女性こそふさわしい。というか、女性にしか描けないのではないだろうか。
国風文化が花開き、「源氏物語」が生み出された平安時代はまさに和製ブルボン朝ともいうべき日本史上もっとも耽美的な時代である。
だいたい平安に限らず、女性ほど古代史が好きな気がするのは偏見だろうか。
平安以前=女性 室町~戦国=男性 江戸=両方 近代=男性という図式がある気がする。
そんなことを言ってはみたが、本作は男性でも十分に楽しめるクオリティがあると思う。
少しでも平安時代の文化やその時代の人物などに興味があれば、読んでおいて損はないはずだ。
歴史を勉強しなおすきっかけにもなるので、是非お勧めしたい。