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【翁の漫画評】神々の山嶺 谷口ジロー/夢枕獏 68点

 

タイトル:神々の山嶺

作者:谷口ジロー夢枕獏

連載期間:2000~2003年 完結(愛蔵版全3巻)

評価点:68点

あらすじ(公式引用):

エヴェレスト初登頂の謎を解く可能性を秘めた古いカメラ。深町 誠は、その行方を追う途中、ネパールで“毒蛇”と呼ばれる日本人男性と出会う。彼がネパールに滞在する理由とは!? そして、彼の正体とは……!?

 

 

一日遅れになってしまったが、山の日記念ということでこの漫画。

2016年に実写映画も公開され、話題になったことも記憶に新しい。

夢枕獏の原作小説を谷口ジローがコミカライズした作品だ。

谷口ジロー先生の名前はは近年『孤独のグルメ』のヒットで人口に膾炙することになったが、70年代から活躍するベテランで数々の受賞歴もある超大御所。

人間ドラマに定評があり、原作付きの作品が圧倒的に多いのも特徴だ。

 

私は根っからインドアな人間なので、登山という趣味、あるいはスポーツ、あるいは仕事に対してほとんど知識もなく、興味もなかった。

だが、そんな私でもこの作品を通して登山、中でもいわゆるアルピニズムというものの過酷さや魅力の一端を感じることができた。

実在の森田勝という登山家がモデルであるという、本作の羽生丈二の超ストイックな登山への情熱や登頂の過程はすさまじいの一言に尽きるし、死に瀕した羽生の描写は真に迫るものがある。

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左)主人公の一人、孤高の登山家、羽生丈二 右)もう一人の主人公、羽生を追うカメラマンの深町

何より実際に何人もの登山家が山で命を落とし、それでも登頂に挑戦する者があとをたたないという事実が、この漫画が単なるフィクションとは言えないことを物語っている。

 

アルピニスト達はなぜ、命の危険を冒してまで雪山に挑戦するのか?

前人未到の偉業を達成した者として後世に名を残したいから?それなら、何も危険な山に登らずとも別の分野で達成することができる。

クライマーズハイとも呼ばれるβエンドルフィンドバドバの快感を求めている?それなら陸上でもやればいい。

山頂からの景色を自らの目で見てみたいから?それにしたって、命を懸けるほどのこととは思えない。

結局、それは言葉で説明できるようなものではないのかもしれない。論理や損得勘定を超えた冒険そのものを求める本能が彼らの中にあるとしか思えない。

そんな登山家たちの姿を、『神々の山嶺』は克明に描いている。

 

というように作品としてのクオリティは非常に高い本作だが、個人的にはこの手の作品には常に拭いきれない根本的な疑問がある。

それは「漫画でやる意味がどれだけあるのか?」だ。

私にとって漫画の極意はデフォルメや映像化困難なヴィジョンを容易に表現できることなので、写実的なタッチで空想の要素がないドラマを描写することにはあまり意義を感じられないのだ。

特にこの物語のように自然との戦いをテーマにしている作品は、やはり映像のほうが媒体として適しているのではないか?と思わずにはいられなかった(実際、映画版の評判があまり良くないというのは置いといて)。

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そうは言っても、この不気味な雪山の迫力を映像で見せるのは難しいのかもしれない…とも思う。

もちろん、こういった写実主義的な漫画作品すべてを否定するつもりはないし、それが好きな人もたくさんいるとは思うのだが、私が考える「漫画らしいエンターテイメント性」からは少し外れたところにある。

 

念のため繰り返すが、作品としての質は高いので、一度読んでおいて損のない作品ではある。特にアルピニズムについて興味のある人にはおすすめしたい。

 

下記のリンクから試し読みができます。

www.s-manga.net